Semi Sweet・1

□03.人のことには敏感なのに
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「キッド君、また新しいの見つけたよ〜」



こっちに向かってくる彼女が片手にもっているのは、おそらく怪しいテレビ通販で買ったと思われる瓶。

そんなに急いで走ったら、転んでしまうぞ、俺はハラハラしながら彼女を待つ。

案の定。

なにもないとこでどうしてつまづくんだ。

くそっ。

俺は彼女を抱き止める。

小さい彼女はすっぽりと俺の腕の中に納まり。

顔をあげて「ありがとうキッド君」なんて元気いっぱいに笑ってくれる。

その笑顔にどんだけこっちがどきどきさせられてるのか、きっとこいつにはわかるまい。



「それで今回はなんだ」

「うん、超、超、超〜強力なやつなんだって!これなら今度こそ、きちっとかちっと染まるよ」

「きっちりかっちりだろ」

「そうとも言う!」



言わないぞ。

えへへって笑ってごまかす。

だからって、ちゃんと覚える気があるのかないのか。

こういうとこはリズやパティと似通っている。



「それよりまた試してみてね」



毒物すらもはじき返す死神体質の俺は何度染めても髪の三本線が消えない

その話をしてからというもの彼女は。

時々こうして、通販等で売ってるものを持ってきては「これで染めてみれば?」と俺にくれる。



「この間のもやっぱり駄目だったんだね、もう中まで戻っちゃってる?」



うわッ!!

俺の髪を触るな。くしゃくしゃにするな。



「やっぱり三本線入ってるね」

「触らなくても、確認できるだろ」

「そんなに怒らなくても」



怒ってなどいない。

なんだ、その目はそんなうるうるした目で俺を見るな。

理性が飛びそうになるぞ。



「じゃあさ、キッド君もあたしの髪触っていいよ」

「ん?」



ホラお返しって、言いながら俺の手を掴み。自分の頭に持っていく。

俺は撫でるようにその髪に触れた。

彼女はずいぶんと嬉しそうだ。



「なんか、気持ちいいねキッド君の手」



もっと撫でてって、まるで誘っているかのような仕草。

か・可愛いすぎる。

しかも、そこでどうして目を瞑るんだ。

俺に何されてもいいというのか。

俺はぎこちなく、彼女から手を放した。



「えっ?もういいの」

「いい」

「っていうか、どこに行くのキッド君」

「家に帰って髪を染めてくる」

「そんなぁ、もっと遊ぼうよ〜」



ぶらぶらと俺の手にぶらさがる彼女を引きずりながら、俺は死刑台屋敷の方角に歩き出す。

彼女はえ〜んとウソ泣きをしながら、キッド君にはあたしの魂の叫びが聞こえないのねとぐずりだした。

俺は立ち止まり、ぶらさがったままの彼女を睨む。



「魂?」

「そうだよ、任務関係の時は仲間の気持ちには敏感になってる癖に」



『あたしが何を考えているのかはちっともわかってないよ、キッド君は』



俺の手から離れると、責めるように彼女は言った。



「いったいどういう事だ!?」

「だからね」



手にしていた瓶を取り上げられ、後ろに投げられる。

道路の上がしゃんと落ちて、中から出てきた液体が黒い染みを作る。

後片付けが大変じゃないか・・・と思っていたのもつかの間。

急に彼女が抱きついてきた。



「こんなの口実なんだよ、あたしはね」



その後の彼女の言った内容で。

どれだけ自分が、駄目で無神経なクズ神様だってことを思い知った。



「あたしはキッド君にかまって欲しいだけなんだよ!大好きなんだキッド君が」



くそっ、何てことだ。

もちろん、こんな時に鬱になっているわけにはいかず。

俺は彼女の気持ちに応えるためにも、まず背中に手を回して。

小さく、俺もだと呟いた。

彼女はぴくんと背中を震わすと、また元気いっぱいに笑ってくれた。



その笑顔にどんだけこっちがどきどきさせられてるのかはこれからじっくり教えることにしよう。





03.人のことには敏感なのに





2008/08/30

初のキッドサイドだけど・・・ちゃんとキッドになってるこれ?


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